B:動く鉄兜 ダークヘルメット
鉄兜を背負うヤドカリがいるのを知っている?
厳しい生存競争を勝ち抜いて、成長するうちに、貝殻では満足できなくなった猛者のようね。より大きく、より硬い兜を求め、次々と兵士や冒険者を襲う存在……。
冗談のようだけど、実在するそうよ。
~モブハンター談
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ショートショートエオルゼア冒険譚
西ラノシアは東西に長く続く海岸線に沿った地域だ。東側に位置する中央ラノシアからクォーターストーンを抜けて街道を進んでくると、断崖絶壁の丘の上に作られたスウィフトパーチ入植地に辿り着く。そこから北西の方向に伸びる海岸線に沿う形で街道は繋がっている。街道に立ち眼下に広がる景色を眺めると遠くに西ラノシアの中心である港町エールポートが見える。エールポートは貿易船のリムサ・ロミンサへの一極集中を解消すべく作られた港町で酒税の優遇措置が受けられるためにエール取引が盛んになり、「エールポート」と呼ばれるようになったという。
そのエールポートの酒場にあたし達二人の姿はあった。
今回のターゲットはダークヘルメットと呼ばれる巨大なヤドカリだ。何故ダークヘルメットと呼ばれるかというと、このヤドカリが背負っているのは巻貝ではなく、戦士が被るヘルメットだからだ。
港町エールポートの酒場で二人は手配書をテーブルの上に置きそれを挟むように向き合って座っている。
「ラノシアに入ってから手配書にケチつけてばっかりね」
相方の女剣士はテーブルに頬杖を着きながら溜息まじりに言った。
確かにそうだ。でも、スコッグ・フリューにしても、バーバステルにしても、ブラッディ・マリーにしても、常になんだか違和感がある。この子たちを倒す意味があるの?誰のために?その疑問がずっと頭から離れないのだ。そして今回のダークヘルメット。
二人は昨日エールポートについたばかりだが、実は既にターゲットであるダークヘルメットに遭遇していた。だがどうしても気になる事があって倒そうとする相方を制止してエールポートまで来たのだ。
「だってさ、手配書や担当官の話では『より大きな兜を求めて冒険者を襲っている』んだよね?そもそもあんな大きな兜を付けた冒険者がいるの?ラノシアに巨人族ってワラワラいるんだっけ?」
あたしはテーブルの向こうの相方に言った。ダークヘルメットの背負っている兜は直径で言えば1.5mほどはある。相方は一瞬何か言おうと口を開いたが、少し考えて口を噤んだ。あたしは続けた。
「あれ、誰かが作ってあげてるんじゃない?あの子人に慣れてたよ?」
相方はしばらく考えていたが、まっすぐあたしに体を向けると前に乗り出し、下から覗き込むようにあたしの目を見た。
「じゃ、どうする?」
今度はあたしがウッと声を詰まらせた。
「放っておく?どうせどこかの賞金稼ぎに問答無用で狩られちゃうと思うけど」
そう言うと相方は意地悪くニヤニヤしながらあたしの様子を見た。
「うぅ…それはヤダ」
あたしは何か答えようとして、逆にテンパった。
「じゃ、あたし達で倒しちゃおっか?」
あたしは降参して首を横に振った。相方の剣士は笑いながら言った。
「いいとこに気付くんだけど結論がないのよね」
そういうとテーブルから手配書を取り上げ席を立った。
あたしは相方の顔を見上げて聞いた。
「どうするの?」
相方はニッ笑いながら言った。
「決まってるでしょ?飼い主を探しに行くのよ」